ある日、いつものように朝10時ぐらいに出社して一夜分溜まったメールをチェックしていると、「Ted talk」というタイトルのメールがあった。きっとスパムメールでしょ、と疑いながら開いたメールをきっかけに、数ヶ月後に実際にTEDのあの赤くて丸いステージに立ち、日本人女性最年少としてTEDカンファレンスでトークをした経緯をここに書こうと思う。
TEDからのメール
私はAwwというバーチャルヒューマンカンパニーでプロデューサーをしている。日本生まれ、海外育ち、というなんとなく普通の日本企業に馴染めない私が働いているこの会社は、テクノロジーとクリエイティブを使い、新たなエンタメの可能性をグローバルな場で探っている。immaちゃんというバーチャルヒューマンのインフルエンサーなど、海外に人気な日本IPを作っており、その影響で国外のプロジェクトも多く、海外への露出も多い。
そんな会社だからこそ「TED Talk」というメールをインボックスに見たときに、真っ先に思ったのが、「また怪しいセールスのメールかよ・・・」と(笑)。実際に、海外からの問い合わせメールは毎日何通もあり、その中には怪しいメールもたくさんある。完全にその一つかと思い込んでしまったメールの文を読み、本当かなぁ、と疑いながらメールもとの名前をLinkedinで検索した時、ん?
これガチかも?とビビったのを覚えてる。
*TEDのオープニングトークで登壇した、パレスチナの平和活動家アジズ・アブ・サラとイスラエルの平和活動家マオズ・イノンさんたちと
TEDと初めての電話会議
メールに返信したらすぐ返信が返ってきた。ちょうどその数日後にははロサンゼルスであるCMの撮影をしていたため、ロサンゼルスの朝の時間帯にオンラインコールをすることになった。
その朝はまだ、明確に覚えてる。本当にこんなことがあるのかな?とまだなんとなく疑いを捨てれずにいながら、同時にトイレに行きたいぐらいの緊張を胸に持ちながら、コールを待っていた。そして、コールが始まった最初の数分で、本当の本当のTEDだとわかり、めちゃくちゃビビった。TEDへの憧れも強かった私は、色々質問される中、本当に恥ずかしいぐらい精一杯口頭で答えた。
最後に説明されたのが、TEDチームはネタをいつも集めてるらしく、今回話したことをTEDのCEOクリスアンダーソンに提出してみるけど、彼が最終決定権を持っていて、他のトーク候補も色々あるから、実際にTEDに選ばれるかわからない。もしかしたら選ばれる順番が来るのは数年かかるかもしれない。と言われた。
へぇーそうなんだ、まあいつか選ばれるかもっ!と、そもそもTEDチームと話すということも幻だったのかな?とぐらい思っていた私はそんなに期待を高めず、コールを終えて、日常に戻った。
すると1週間後。1通のメールが届いた。
担当の人も驚くほど、クリスアンダーソンがすぐOKを出してくれたらしい。
そんななんともない日常の中で、数ヶ月後に1年に一度行われるTEDカンファレンスでトークをすることが決まった。
*赤い丸の上と、どでかいTEDの文字、と自分
TEDとは?
そもそも、TEDとは。今年で40周年を祝ったTEDは「Technology, Entertainment, Design(テクノロジー、エンターテインメント、デザイン)」の略しで、世界中の革新的なアイデアや知識を共有することを目的としたカンファレンス。TEDでは、どのような分野の話でも、各トークが毎回18分以内にまとめられている。イーロン・マスク、スティーヴン・ホーキング、ビル・ゲーツなどの著名な専門家や研究者が登壇し、その短さと分かりやすさでオンライン配信では2,200万回以上再生されることもある。
私が中学校、高校の時は、当時SNSが普及し始めたという理由もあり、人気だったFacebookではTEDトークがフィードでシェアされ、友達からもこのTEDトークよかったよと日々メッセージがくるような規模だった。そんな「みんなが見てる、知ってる」っていう印象を持ってたTEDだけど、TEDトークの理念「アイデアを広める(Ideas Worth Spreading)」にはキュレーションから社会情勢など全てを組み込まれた動画がたくさんあり、一つのTEDトークで人生が変わるという経験をした人はたくさんいると思う。私も実際に、TEDトークに影響されたことは数を測れない。
*バーチャルのimmaが、リアルな世界を影響している。実際にカンボジアを訪問して、家庭内暴力の被害者であるカンボジアの女性たちの声を世界に届けた。
TEDへの道なり
TED本番まで、数ヶ月の準備期間があった。その数ヶ月では基本「自由」に、話したいことをスピーカー自身が考えて、台本のドラフトを書き、専門のライターさんの意見をもらって、再度ドラフトを調整する、という作業を何度も繰り返した。
他のTEDスピーカーとも話したけど、この「考える」段階が本当に大変だとみんな言っていた。伝えたいことを18分以内にまとめる。専門家になるほど、何をどう18分にまとめればいいのかを悩む人が多かった。私もドラフトを書いては書き直して、最終的には初期と全く違うトークの内容になった。ドラフトの数は10個ほど。それ以上のドラフト数を書いた人もいた。
この準備期間が、今思い返せば、とても貴重な時間だった。いつも何気なく伝えたいことは伝えて、バーチャルヒューマンについては会社では毎日何時間も話している。でも、それらの時間をすべて振り絞って、一つのトークで世界に何を伝えたいか。そんなことを考える機会は今までなく、本当に重要な要素はどこにあるのかを探る数ヶ月でもあった。
*今年は3人も日本人スピーカーがいた:Oishii代表 古賀大貴、me、生殖遺伝学者 林 克彦
TED本番
本番のTEDはバンクーバーで行われた。年に一度、どこか会場を選んで開催されるTEDトークは、最近バンクーバーで開かれることが多いらしい。
TEDカンファレンスは1週間。トークをしたらホテルに帰るぐらいだろう、と思ってた私が驚いたのは、毎日複数のトークや、イベント、アフターパーティなどが行われていて、ほぼ休み時間がないぐらいびっしり詰まったカンファレンスだということ。カンファレンスにいる人は観客としてチケットを取った来場者か、スピーカー。45年前の、最初のTEDの時から参加しているTEDオタク?みたいな人たちも複数いて、その人たちは何回TEDに参加したかを示すバッジなどをつけていた(笑)
年に一度行われるカンファレンスでは合計70名ほどのスピーカーが選ばれ、登壇する。最初の数日は他のスピーカーたちと交流したり、リハをしたり、諸々案内をされたりで忙しかった。今になって振り返ると、登壇前のスピーカーは全員(私も含めて)ずっと緊張した顔をしていたなと、今終わったなのか思い出す。
TEDチームに、「過去に登壇をしてきたみんな、緊張してた?」って聞いたら「元アメリカ合衆国副大統領のアル・ゴアも登壇する前めちゃくちゃ緊張してたよ」と聞いて、アル・ゴアでも緊張するならもう緊張するしかない、と振り切った覚えがある(笑)
そして、自分の番がきた。TED中に仲良くなった別の日本人2人と会社の代表が観客で見守ってくれている中、いざ!とTEDの赤い丸のステージに上がった。
そして・・・・ここからは動画をみてほしいという意味で、これ以上は語らないようにする。
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こちらからどうぞ!
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*こう言う風に観客に座り、他の人のTEDトークも積極的に見に行った
*TEDカンファレンスではたくさんの人との出会いがあった。3回TEDトークをした心理学者 ガイ・ウィンチさんと ギル・ウィンチさん
*日本人スピーカー3名、無事に全員のトークが終わり打ち上げ
*Oishiiのいちご、美味しい
世界に伝えたいこと
世界に何を伝えたいか。Awwとして何なんだろう、バーチャルヒューマンカンパニーとしてなんなんだろう、immaちゃんとしてなんなんだろう、私個人としてなんなんだろう、とずっと考えてきた出した答えがこのTEDトーク。
伝えたかったのは、やっぱり、私がimmaと出会った時の感動。
*immaのインスタグラム投稿
私はこの会社に入る前(今から4年ぐらい前)インスタからimmaという存在を初めて知った。それは知人からの紹介で、「見てーこれ全部バーチャルなんだよ」という説明の上に、immaのインスタ投稿を見せられた時だった。なに一つも違和感なく、リアルな人間が溢れるSNSの中に紛れて、彼女自身のストーリーを世界に発信しているピンクボブのバーチャルヒューマン。しかもZ世代はバーチャルと知りながらも彼女と友達のように接していたり、コメントをしたり、リポストしている。
正直、頭のどこかがボコーンと叩かれた感覚を持った。なにこれなにこれ?!と心がざわついたのを覚えてる。
もちろん、こんなにリアルな表現できるんだ、と感心したところもあったけど、それよりもっと大きく、なんか、未来を見せられた気がして感動した。その未来は、現代のニュースメディアで語られるAIやテクノロジーのディストピア的な物語とはまったく異なる、普通に楽しそうな光景だった。このテクノロジーによって、人間の多様な形や感情、可能性が広がる未来が見れた。
テクノロジーに全く興味がなかった私の人生を180度変えてくれたのはこの感動があったからこそ。TEDの「アイデアを広める(Ideas Worth Spreading)」という理念にも通じることだが、人は一つのアイデア、一つの希望で心が動くと、世界が変わる。
言い返してみると、世界は丸ごと一つの感動で変えられる。
だから、私が感じているバーチャルヒューマンの感動とワクワクを世界に伝えたい。
その機会として、TEDは本当に大きい場だったと思う。ズラーって書いたけど、このTEDまでの数ヶ月、何度も不安で負けそうになった時に支えてくれた人たちには本当に感謝してる。あと、こんな機会を若い女性に与えてくれたimmaちゃんにも感謝。