CGアーティストと企画チームのコミュニケーションを円滑に進めるには
CGプロジェクトマネジメントの3つの要点
導入 - CG制作のプロジェクトマネジメント
弊社では2023年1月より、Virtual human streaming project ANOMEを推進してきました。 当プロジェクトでは、5体のVirtual humanを1年と4ヶ月でデビューさせることができ、現在も日々、タレントが問題なく配信活動を行えるよう運営しています。
しかしその裏側では、企画サイドと開発サイドにおけるコミュニケーションの難しさに直面する機会が多くありました。企画サイドが用意した仕様書をCG artistが意図に反して解釈してしまう、企画とCG artistがうまくコミュニケーションを取れず手戻りが発生するなど、様々なコミュニケーション課題を抱え、その都度、問題解決について考えてきました。 そこで、弊社において約1年半かけて蓄積してきた、CG artist(技術者)と企画職のコミュニケーションのポイント、またチーム全体でプロジェクトを推進しやすくするための情報をまとめたのでそれを公開します。
CG artistやコンテンツ制作の企画職の方はもちろん、プロダクションを抱えるマネージャーや経営者の方々の手助けとなれれば嬉しいです。 この記事では主にCG制作のプロジェクトマネジメントについて、チームワーク、コミュニケーション、CGの進め方という3点に分けて、その要点を解説していきます。
そもそもCGのプロジェクトマネジメントって何?
CGのプロジェクトマネジメントというと、スケジュールや納期の管理を想像しやすいですが、最も重要なのは、プロジェクトの成功を阻むノイズを排除し、問題の未然発生に努めることだと弊社では考えています。 これをCGディレクターやスーパーバイザーに任せてしまうのではなく、プロジェクトマネージャーが担えるようになると、仕事は推進しやすくなります。 そのためにはCGへの知識に加え、異なる部署と円滑にコミュニケーションを進められるスキルが求められます。
チームワーク
CGのチームというと、CG業界で専門文化されたさまざまな専門家を束ね、チームを形成することが多いと思います。 CGプロダクション(制作会社)には、さまざまな役割のCG aritstが常駐していることが多いですが、小規模のCGチームやスタートアップでは、少人数のメンバーでプロジェクトを進める必要に駆られることがほとんどです。 この章では、少人数のチームだったとしても、プロジェクトを推進できるチームワークの基本について説明をしていきます。
最低限必要なチーム編成とは
前提としてプロジェクトのゴールによって必要となる役割は変化しますが、キャラクターを伴うプロジェクトの場合、不可欠な役割が3つ存在すると考えています。 それは、キャラクターモデラー、リガー、アニメーターです。 この3つの役割は、一つのキャラクターを作るために連携して働く必要があるという点で特殊です。例えば背景アーティストやエフェクトアーティストのように、比較的単独行動しやすい職種と根本的に性質が異なります。 キャラクターを作るプロジェクトでは、可能な限りこの3役をプロジェクト開始時点で揃えることが望ましいです。 そしてプロジェクトの進行管理は、それぞれのパートの専門職の方々と議論したうえで決定すべきと言えます。
kick off meetingの必要性
Kick off meetingとは、プロジェクトの説明を行う最初の会議のことを指します。 この会議の役割は、誰にどのような責任があるのかを明確にすることです。 このような会議を行わず、ぬるっとプロジェクトが始まってしまうと、ダブルディレクションや、メンバーが他責になっていくなどの問題が発生しやすいです。 ダブルディレクションとは、重要な意思決定を行う人物が2重に存在することを指します。 具体的には、モデラーに対して、異なる人物から違う意見が飛んできてしまい、モデリングの方向性が混乱するなどがあげられます。 メンバーが他責になるとは、プロジェクトメンバーの仕事の範疇が明確になっておらず、他人のせいにしやすい状況のことを指します。 このような状況を作らないためにも、Kick off meetingは、プロジェクトの関係者を全員集めて行うことが重要です。
Kick off meetingで確認すべき重要事項
Kick off meetingで確認すべき重要事項は、次の3点です。
クライアントはいるか
ディレクターはだれか
プロジェクトマネージャーはいるのか
クライアントの確認
クライアントがいるプロジェクトでは、絶対的に守らなければいけない納期が決まっている場合がほとんどです。 クライアントなしの制作でも納期があることが望ましいですが、研究開発などのプロジェクトでは納期が明確に決まっていないことも多くあります。 その点で、クライアントがいるか否かは、プロジェクトの性質を大きく二分化します。
ディレクターの確認
ディレクターは誰なのかの確認も重要です。 CGは専門的で複雑な制作過程を辿りますが、最終的に生み出される成果物は、多くの人が見慣れている絵(グラフィック)です。そのためアウトプットに対して誰でも意見を言えてしまうという特徴があります。 「なんかダサい」「かわいくない」「もっとこうしたほうが良いのではないか」 最終成果物に近い段階になればなるほど、このような意見が関係各所から飛んできやすいです。 誰でも意見できる状況は結果的にプロジェクトに混乱を生み出し、予期せぬ問題を発生させることがあります。だからこそプロジェクト全体のディレクションをだれが握っているのか、誰の意見が強いのか、それをプロジェクト開始時点で明確にしておくことに意味があります。
プロジェクトマネージャーの確認
プロジェクトマネージャーがいるかどうかの確認も重要です。なぜなら小規模組織では、プロジェクトマネージャーが不在のプロジェクトも多く存在するためです。 プロジェクトマネージャーが不在の時、その役割をだれが兼任するのかをプロジェクト開始時点で確認しておく必要があります。 プロジェクトマネージャーは、他部署とコミュニケーションを図り、それら部署がやりたいことを吸い上げたり、時には断るなどの役割を担う必要があります。
コミュニケーション
CGは、3Dを扱う仕事です。 他部署の意図をくみ取りつつ、イメージ通りに3Dに変換していくために重要なのがコミュニケーションです。適切な進捗報告の仕方、検証と制作のバランスやタイミングなどによって、ミスコミュニケーションが起きることもあります。仕事を進みやすくするために、CGのプロジェクトマネジメントに関するコミュニケーションの要点を解説します。
言語で話すか絵で話すか
CGサイドが他部署と話し合うときのコミュニケーションツールは、主に言葉と絵です。言葉で伝えるか、絵(2D)で伝えるか、この2点でお互いの部署の考えていることを共有する必要があります。
言語と絵のコミュニケーションの違い
基本的に他部署とのコミュニケーションは、最終アウトプットに近い形でのコミュニケーションを行えるほど意思の疎通が取りやすくなると言えるでしょう。そういう意味ではCGの制作プロジェクトの場合、言語よりも絵の方がイメージは共有しやすいです。しかし絵は言語よりも解釈に幅があるという難しさもあります。また絵でのコミュニケーションは光や色、構図に関する知識がなければ、間違ったディレクションが生まれやすいということに注意が必要です。
この画像は、弊社において新しいキャラクターを作った時の3面図(絵)です。 この画像は高品質な絵に見えますし、一見極めてイメージを伝えられているように思えますが、モデラーと企画チームとのコミュニケーションに問題を生む要因となってしまいました。 その理由は、この画像のキャラクターが焦点距離300mmを想定した絵であったにもかかわらず、キャラクターのレンダリングは焦点距離50mmで行わなければならない仕様だったためです。
つまりモデラーがこの絵の通りにキャラクターをモデリングした場合、300mmのカメラではこのイメージに近い顔になりますが、50mmのカメラではこのリファレンス通りの雰囲気にはならないという問題が発生し、モデリング修正という追加タスクが生まれました。 このような問題を防ぐためにも、企画サイドとアーティストサイドのコミュニケーションを行うとき、どのようなことに注意する必要があるか、具体的に解説していきます。
言語で伝える際の注意点
必ず主語を明確にする
言葉で伝えるときの要点は、主語を明確にして短文で言い切ることです。 「ディレクターはだれだれ」「予算はいくら」「キャラの服の方向性は、ほにゃらら」 というように主語が明確になっていることが重要です。主語を明確にした短文の利点は、意思決定が明確になる点にあります。 そのようなコミュニケーションが増えると企画がまとまりやすい会議を作ることができます。
抽象的な言葉で終わらない
逆に良くないコミュニケーションの例は、「なんか全体的にかわいくしたい」「まだふわっとしてるんだけど、Kpopっぽい感じ」 というような、何に対するイメージなのかが明確になっていないやり取りです。 イメージがまとまっていない段階でこのようなやり取りが行われてしまうのは仕方のないことでもありますが、意思決定が遅れればプロジェクトの進行は遅くなります。
言葉の要件定義をプロジェクト初期段階で行う
例えば「画角」「ショット」「パース」など、曖昧な認識がされやすい言葉に対して、どのような意味合いなのかを定義すると良いです。特にプロジェクト初期段階で行うことで、チームでのコミュニケーションが円滑に進みやすくなります。
「自身の感想」と「客観的なデータ」を明確に分ける
自分自身の感想と、客観的な指標とを分けてコミュニケーションを取ることが重要です。例えば、「かわいい」という言葉は広義すぎる上に人によって価値観の違うものなので、「自分の中のかわいい」と「このプロジェクトにおけるかわいい」を分けて用いる、などがこれに当たります。
絵で話すときの注意点
2Dを用意する側の人間が、3Dへの理解度を高める
2Dのイメージがイラストや絵であったり、写真であったりする場合、そこには暗黙的にCGの根本的な原理である光やカメラという共通言語が存在しています。 それらを無視していたり、それらへの理解が甘いイメージが用意された場合、CGが現実の模倣をベースとする以上、どれほど頑張っても再現が難しくなってしまいます。
全ての資料に画角(焦点距離)を明示する
仕様書にはできる限り画角(焦点距離)を明示することが望ましいです。これが無いと、「どの距離から見たものか」が分からないためです。 上記3面図の例のように、カメラの焦点距離が変わると、顔が変わってしまいます。 この問題は、最終的にレンダリングするときの焦点距離を考慮せずに、コンセプトアートやリファレンスを集めることによっておきます。このような事態を防ぐためにも、2Dイメージを用意する側の人間が3Dへの理解、特にカメラへの理解を深めることが重要です。
2Dの再現度よりも、3Dとして良いものを作る意識をする
最終的なゴールのイメージを、3Dでの進捗を確認しながら、2Dデザイン側と共創的に作っていくという方法があります。 この方法は、コミュニケーションコストが高く、ひたむきに話し合いながらモノづくりを進める必要性がある点で、全体的なプロジェクトマネジメントの進行度合いを遅らせる可能性があります。しかしその分、重大な手戻りコストは抑えられるという利点があります。またオフィスなどの対面コミュニケーション向きであると言えます。
他部署とのコミュニケーションを円滑化するためのツールの必要性
言葉と絵でのコミュニケーションに加えて、何かしらのコミュニケーションツールをCGサイドから用意できるかが、スムーズなプロジェクトマネジメントを可能にします。 具体的には、Vコンなどを迅速に用意することなどがこれにあたります。 Vコンとは、絵コンテから簡易的な映像を作ったものです。 CGサイド側からVコンを提示すると、コミュニケーションのラリーが生まれます。 このラリーによって、双方のイメージをすり合わせていくことができます。 なるべくプロジェクトの早い段階で、Vコンなどのコミュニケーションツールを提示することが重要です。 キャラクターの開発をしている場合でも同じです。進捗度合いが低い場合でもデータを共有することで、3Dモデルはコミュニケーションツールになります。 このコミュニケーションツールの提示が、問題を未然に防ぐことに繋がりやすいです。納期ぎりぎりまで何も見せないという状況が最もよくないと言えます。
CG制作の進め方
それでは最後に、CGのデータの作り方、プロジェクトの進め方についての要点を解説します。
環境構築とバージョン管理の必要性
CG制作の進め方において重要なのが、環境構築とバージョン管理です。 環境構築とは、アーティストが作業するソフトウェアの環境を統一すること、カラーマネジメントを徹底すること、モニターなどのハードウェアを整えるなどが当たります。 バージョン管理も環境構築の一部であり、GitHubやplustic SCMのようなバージョン管理ソフトを通じて、ローカルPCに依存しない作業環境を構築したり、DCCツールのバージョンを統一することなどを指します。 環境構築を怠ってもプロジェクトの初速には影響しないかもしれませんが、長期的には進捗の低下が起きやすいです。またデータの欠損などに対応できないというリスクもあります。 バージョン管理を徹底し、アーティストの作業環境を万全に整えることは、プロジェクトマネジメントにおける基盤作りを意味します。
最適な制作開始タイミングについて
CG制作の過程には、大きく分けて2つの段階があります。 一つは検証です。もうひとつが制作となります。 検証とは、今の組織においてこれまでやったことないことを試す期間です。 ゲームエンジンの新しいバージョンを試す、これまでとは違った仕組みでヘアーのパイプラインを組む、これまで使っていなかったDCCツールを組み込む、レンダリングのサンプル数をテストする、テクスチャの解像度を上げた時の処理不可を調べるなどが検証に当たります。 もうひとつが制作です。制作とは、最終的なアウトプットへ向けてデータを作っていく段階のことを指します。 キャラクターのモデリングをする、背景のモデリングをする、キャラクターのリギングを組む、エフェクトを作る、レンダリングを行うなどが制作にあたります。 検証と制作において重要なのが、いつから制作を始めるかという制作開始タイミングについてです。 基本的に制作は、想定される検証が全て終わってから始めるべきと考えています。理由は、それがリスクマネジメントとして最も有効な策であるためです。 CG制作のプロジェクトマネジメントにおいて、検証と制作を同時に進めてしまうことがよくあります。 例えばキャラクターのモデリングを行なっている裏で、ヘアーのパイプラインの検証をするなどです。このマネジメント方法は一見効率的に見えますが、検証過程においてどこか重大な欠陥が発見された場合、手戻りが発生する可能性があります。 だからこそ検証を焦らず、しかしミニマムに行う必要があります。 検証を終えてから制作を行う方が結果的に早く最終アウトプットまでたどり着くケースが多いです。
チェックの注意点
進捗のチェックを行う時の注意点についてです。
判断をする人物を明確に、全員で行う
開発進捗のチェックは、意思決定権を持つ人物が明確になっている上で、できる限り全員で行うことが重要です。 キャラクター制作で言えば、モデラー、リガー、アニメーター、ライティングなどは必須です。また企画部と開発部合わせてチェックを行えるとより良いと言えるでしょう。
ログとして明示的にFBを残す
チェックにおけるログ、FBは、必ず残しましょう。Slackなどコミュニケーションツールでログを残しても良いですが、流れないフォーマットで残しておくことも重要です。
終わりに
CG制作のプロジェクトマネジメントは、単なるスケジュール管理や納期の調整を超えて、チームの連携やコミュニケーション、リスク管理において非常に重要な役割を担っています。 この記事では、チームワークの基本、効果的なコミュニケーション、そして制作プロセスにおける注意点について解説しました、参考になりましたら幸いです。
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